おいらのバイブル的映画。
荒木経惟がなにかの写真集でこの映画のことに触れていて、はじめてみたのが10年くらい前のこと。
小津安二郎の「東京物語」の世界を見たくてやってきたヴィム・ベンダースが、
小津の描く東京とは絶望的に違う「今」の東京の光景を呆然と撮りつくす。
ベンダースが一歩も二歩も離れて撮った東京は、あまりにも異常で、
まさに「光景」とでもいうべき風景の連続だった。
そんな感じの映画。
「東京物語」で笠演じる老夫婦が東京で受けた冷たい仕打ちが、
そのまま形を変えてヴェンダースへ向かったような。
映画後半の小津に仕え続けたカメラマン厚田雄春への淡々としたインタビューもいい。
厚田の小津への慕情や尊敬の念、小津の厚田への信頼の念。
それがしんみりと伝わってくる。
厚田は、小津のことを延々と語り続けた後、最後に言葉を詰まらせる。
「もう勘弁してください」
そして、そのまま「東京物語」のエンディングへ。
妻亡き後、笠がぼんやりと家で過ごすシーンだ。
Tokyo-Ga
監督:ヴィム・ベンダース
出演:笠智衆ほか
1985年

この映画に写る東京は24年前の東京だ。
ちょうどおいらが東京で思い切り子どもだった時代(78-85年)で、なんとなく懐かしい。
こんなにもパワフルな街にいたのかと思うと同時に、なんと空々しい街におったんだろう、とも。
最近はなんだか半年に一回は東京へ行っているけど、
この街の力強さと空々しさはもうずっと、東京物語の時代から何も変わっていないのかも知れない。
何度訪れても楽しいしちっとは住みたいなあとか思うけど、
二日も経てばどこか空しくて、どこかつまらない東京にうんざりしはじめる。
だけど、なんでこの街はこんなに絵になるんだろう。