好きです。さっぽろ(個人的に)


高知遺産を作ったのはもう8年も前になる。もうそろそろ絶版になるのでこういう話ももうなくなるだろうけど、たまにその時の話を聞かせてくれということでお呼びがかかる。んで、今回は札幌。イベントの表題は「好きですさっぽろ(個人的に)」。

個人的な偏愛にまみれた空間や場所をその都市や地域に対して持つことが大事ではないかという感じのことがテーマの企画で、市民からの写真公募と今回のトークセッションからなるイベントだ。
札幌は190万の日本で四番目の大都市だ。しかも道内各地、全国各地から集まった人の寄り合い所帯のような都市だから、他人には無関心で他人への関わり合いをそう持たない土地柄だという。そのうえ名古屋のような地下都市としての成分も濃いから、地表での面白さは正直少ない。綺麗な碁盤の目の街であり、さらに歴史も浅い都市ゆえ、その無機質感にはまた輪がかかる。
だからこそ、今後どのような取り組みに転化していくのかはまだよくわからいところはあったけど、個人的な偏愛空間をひとまずはこの企画で表明しあい(もしくは改めてそれを考えるきっかけと作るということで)、札幌という都市をそれぞれがそれぞれの形で愛していくことをしよう!というわけだ。

トークセッションは三部構成で、地元北海道のスピーカーの中で唯一自分だけが道外在住だった。呼ぶきっかけを作ってくれたのは「北海道裏観光ガイド」をつくられた堀直人さん。北海道を裏や斜め視線から見つめ、出版系NPOの運営に関わり、デザインの仕事もしていて、自分となんか相似形。このイベントの内容ならこいつをということで名前が挙がったそうな。
そして、私もちょうど半年前、偶然にも岡山の451Booksで堀さんの「裏ガイド」をゲットしていた。ビニールに包まれたなんともいかがわしい本で、中身はよく分からないがとにかく買わざるを得ない感じ。炭鉱やら秘宝館やら路地裏やら、高知遺産や都築響一の珍日本紀行と相通じつつ、サイケだったりやたらと暗かったりと濃淡が印象的なガイドブックだ。
堀さんとのトークセッションでは、高速が通り、イオンが出来て西武がなくなり・・・といった街の変化の中、妙な危機感と勝手な責任感を共有した仲間と作った高知遺産の「成立理由」、この本がどこかで出発点になっている蛸蔵や土佐和紙プロダクツ、商店街の情報発信などの取り組みを駆け足で説明し、その後50分くらいいろいろと話をした。
札幌では、札幌の面白さがもうどこにあるのかよく分からなくなってきている部分もあるという。自分たちからすれば冬の札幌の風景それ自体が面白いし、二条市場の激安なホタテやタラバガニの並ぶ風景、狸小路の外れのアーケード、ススキノの裏路地や初夏のライラックの花が飛び交う大通公園などいくつでもあげられそうだがそうではないという。
まあこのような話はよくあることなれど、札幌におけるこの課題は、東京や大阪といった「内地」の都会とも、高知のような地方都市ともまた違う意味で深刻なのものなのかも知れない。もともと歴史や風土が浅い状況の中で、イオンをはじめとする大資本がロードサイドを占有し、苫小牧や釧路、旭川といった北海道の諸都市はどこもが数十年前の風景を失ったという。札幌はこの点でまだ救われているものの、都市化が進んで地下化が進めば進むほど、はたまた江別や恵庭などにまで広がる郊外化が進めば進むほど、どこに面白さがあるのか見えなくなってきているのかも知れない。また、市民の札幌愛も、おそらくは若干過剰な郷土愛を宣言する人が多い高知とはたぶん比べものにならないくらい少ないのかも知れない、とも。要は街に心を寄せる「よすが」がないというか。

なんにせよ、高知遺産も裏ガイドも「個人的に」も、基本は「るるぶ」やステキな「ことりっぷ」(今回の旅はこの本で遊んだけど)には載っていないような、そこに暮らしている人間が「偏愛」的に魅力を感じている場所を発掘し、編集・発信しようとする試みだ。
実際に自分たち自身が余所から来た人をどこへ連れて行くかといえば、桂浜や牧野にお城といった一般的な観光地ももちろんだが、自分だけが知っているような風景が見える場所も案内したいし、裏路地の小さな店や友達のやっているこだわりの店へもしっかり連れて行って人とも話をさせたいと思ってしまう。
そういう偏愛を持たれる場所や風景、店を持つ人がその街に多ければ多いほど、その街は「普通におもろい」ということになるだろうし、そういった情報がきちんと来る人にも住んでいる人にも提供・共有されることができれば、それだけで街の経済は少々潤うのではないかと思うわけだ。もしかすると、この流れをうまく作ることができれば、わざわざ観光資源を作るために大金をはたく必要もなくなるかも知れないし、職員を観光のためにたくさんはり付ける必要もなくなるかも知れない。
で。おそらくは、誰もがこんな「個人的な案内」はしている。だけど、そんな「個人的な」スポットに関する情報共有がなされていないこと、もしくは表明することがどこか恥ずかしいという状況、そういうところを変えていくことができたらいいのにね、、、というのが、今回のトークがオチたところだった。
一方、こういうことが妙に力強い「市民パワー」や「地域づくり」してますマインドにこうした動きがはまってしまうと、これはこれで相当に気持ちが悪い。単なる自分自慢や知識自慢のような片道通行な情報発信ではなく、もっとすんなり心に落ちるような編集の力が必要になるわけで、そこでは言葉や写真の力がまた必要になるはずだ、とも。要は一般化したいというか。

今回の企画で市民から集められた「個人的に」好きな場所とされたパネルを眺めてみると、まだまだ「好き」を表明するのが恥ずかしいのかなとちょっと思ってしまうくらい、いかにも「札幌」的な場所が多い感じはした。そういう意味ではまだまだこの企画は当然のことながら始まったばかりでこの先の道のりは長いよ、という感じだ。
だけど、それよりも重要なのは、これを札幌市という行政が関わって手がけているということなんじゃないかと思う。むろん最終的にこの企画を先頭に立って実行したのはコンサルであり、まちづくり会社であり、トークに出たのも自分や堀さんのような勝手に民間でやっているような人たちであるわけだけど、従来のスタンダードな代理店やコンサル任せな観光や文化、都市計画を考えてしまっているところよりはやはりセンスがあるように思える。要は安全牌だけでなく、博打な牌を打とうとしている面において、この先の可能性を少しでも広げておこうというところが、なんというか、頼もしい。
また、今回登壇したスピーカーもナビゲーターも、裏方を務めたスタッフもほとんどが30-40代程度と若くて、これもまた元気すぎる中高年層が分厚すぎて若い師がどーにも埋没しぎみな高知ではちょっと考えにくい感じだった。未だに人口膨張が続く大都市で、若い人の人口占有率もかなり高いからだろうけど、この差はなんというか、案外でかいかなと。

北海道裏観光ガイド→→→http://ura-hokkaido.x0.to/