足かけ5年かけて作ってきた「JPN47 にっぽん絵図」が、あさって2月19日、めでたく講談社より発売開始であります(都内では一部書店で本日から)。もう二度とこんなスーパーメジャーレーベルから本を出すことはないだろうし、その経緯などなどいずれは忘れてしまうことなので、忘れる前に備忘録を残しておこうかと。

日本地図の本を出さないかと講談社の方からお声かけをいただいたのが2015年10月。「マップマニア」という本で制作した仕事がいくつか紹介されていたのが目に留まり、依頼をいただいたのがきっかけだった。

子どもの頃一番好きだった絵本は、かこさとし先生の「」「宇宙」「地球」。その名の通り海や宇宙、地球の構造から生物史や生態系、人工物の構造から大きさに至るまで、ミクロからマクロの視点まで縦横無尽に描きあげた絵本で、それこそ目に穴があきそうなくらい図書室で眺めていた。たとえば魚とか潜水艦とか貝殻とかの絵にはその「名前」だけが記されていて、細かい説明は一切ない。そのぶん事典や本で調べたりしなければならなかったし、いろいろと遊んだり考えたりする余白がある本だった。

なので、自分が日本地図の本を作るとしたら、この考え方でつくりたいなと思った・・・・わけだけど、そんな絵を描ける人は限られる(「マップマニア」で紹介された地図は自分が描いたものが多かった)。上物のイラストは「仁淀川お宝地図」で仕事をして以来ずっとつきあいがある梶原希美さん、地図のイラストは四国大陸で会って以来時々仕事をお願いしていた高松のオビカカズミさんに即決してお願いすることにした。そして、自分はこの本全体の編集とデザインに各都道府県のテキスト、細かい校閲調整や巻末資料は東京の編集会社であるオフィス303の担当と割り振りが決まり、2016年の春先から本格始動した(本当はもう少し細かい話はいろいろあるけど割愛)。

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47都道府県の特徴を、限られた紙面でいかに伝えるかというのがこの本の使命。「へー」「わっ」「ぷっ」とどのような形でもいいから、各県ごとにおもしろさを感じてもらいたい。それは講談社の担当者さんからのオーダーであり、絶対に実現しなければならないこと。

北海道のページ。北海道は例外的に巨大なので地図部の描き込み量はやや低め。

絵地図については、たとえば愛媛や福島の直線的な活断層、九州や新潟の襞のような褶曲地形、谷が幾重にも重なる長野や岐阜、とらえどころが無い中国地方など、活断層や河川、火山など各県に特徴的でなおかつその土地の風土を形作ったであろう地形をきちんと捉えることを重視し、各県ごとに描くべきポイントをまとめた資料を作成した上でオビカさんに託した。普通の地図や航空写真だと一見わかりにくい地形の特徴も、絵地図であればある程度誇張もされるからわかりやすくなる。

上物のイラストについては、東京大学の地文研究会の学生さんがまとめてくれた候補リストを参照しながら、人から見聞きしたことや最新のニュース、なにより自分が旅したりする中で知っていたことなどなどを加味して「その都道府県らしさ」や「意外性」が見えてくるものを選定した。数としては各県30-50個くらいだけど、全国で合計すると1400点以上もの数になる。これらも参考画像なども収集した上で梶原さんにリリースし、さらに梶原さん自身がいろいろ調べたりして描いてもらった。

で、イラストができあがったら順次レイアウトし、おもしろさが足りないと感じれば追加で描いてもらったり描き直してもらったり思い切ってボツにしたりを繰り返した。一番最初にテストでつくってみた高知県に至っては、絵地図も上物もそれぞれ2、3回描き直しをお願いした。

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これはおそらくこの本の一番の価値に重なってくることでもあるのだけど、この本をつくってみて一番良かったことは、あまり関心を持つことができなかった県、たとえば正直に書いてしまうと佐賀や福井、青森あたりが実はかなり面白そうなことに気づかされたということだった(そしてまた、逆の県もあったけどここでは書かない)。また、この南北に細長いニッポン列島の恐ろしいほどの文化的・景観的多様性の深みにも気づかされたし、知らないことがまだまだ山ほどあることにおののいたし、これは沼だと思った。

3つの県は、とりあえず私にはほとんど情報が入ってこない県。いや、情報が流れていただろうにしてもそれを摂取する「きっかけ」がなかった県であり、そもそも「きっかけ」自体が少なかった県だ。だけど、調べてみればなかなか面白くて、絵にしたときも面白い。なんかナゾめいているものも多くて楽しい。小粒なものばかり(良い意味で)だとしてもひとつひとつが魅力的に見える。なんでこの魅力を感知しようとできなかったんだろうか、と思う。

というわけで、そこそこ歴史や地理に関心があり旅好きタイプの自分ですら、この本は作りながらへー!と驚くことがいっぱいあった。

そう思えば、日本・・・いわんやよその県のことなんぞに興味のない人だったら、たぶん驚くことや発見がたくさんある本になっているんじゃないかと思うし、思いたい。そして、まずは自分の子どもにだけど、この本を通して自分の知らない土地に興味を持つことの面白さや地図の楽しさ、日本の面白さの一端(そこからはじまる世界の面白さも)を知ってもらえたらな、と思う。

JPN47 にっぽん絵図

著者:タケムラナオヤ+オビカカズミ+カジハラキミ
編集:オフィス303
デザイン:タケムラデザインアンドプランニング
監修:高田明典
編集協力:東京大学地文研究会地理部
発行:講談社

定価:3,630円(税込)