なんせ13時間は永い。たぶん手足はガクガク、アタマの中は煙でイッパイになってしまいそうだ。
そんなことを考えて、一応ニコレットのガムも買っておいた。それから、空港で一気に三本まとめ吸いして、ニコチン濃度をこれでもかという位にあげておいた。あとは、もうできるだけ考えない。ただひたすら、機内のゲームや映画に集中しよう。タバコ吸いたいなんて決して思わないように、タバコのことをムクムクと考えだしたらどーか外でも眺めてスッキリしよう。
おいらにとって、海外旅行の最大の弊害にすらなっていたタバコ禁煙問題。正直12時間とか13時間とか、そんな永い永い時間を耐えられるよーな自信はなかったのだ。海外渡航済喫煙者に聞けば意外とすんなり耐えられるという「ウマい話」もなんか信じれないし。

 が、意外とすんなり耐えられた。むしろ座席の余りの窮屈さの方にアタマが行って、座席モニタの地図やゲーム、そしてもちろん機内食にアタマが行って、行きはニコレットを一回噛んだだけで済んだ。なんか3000円近く出してニコレット買ったのがバカみたいである。


それはそーと、飛行ルートが映し出されるモニタは実に興奮する。ロシア上空ではシベリア辺りが少し見えただけで後はずーっと曇り。晴れだしたのはヘルシンキのちょっと手前あたりだったんだけど、日本とは全然ちがった様相の陸地がみえるたび、ホントに海外ってあるんだねえ~となんか思ってしまう。

特にドイツ上空に入ってからは、ダラダラずーっと緩やかな丘地形がひろがる。少しの谷間に小さな集落があり、そんな集落がパラパラと点在。たまに大きな街があると、そこから放射状に道路や鉄道がのびて、シナプスのように小さな集落やまた次の街を結んでどこまでも広がってゆく。その間に広がる田園や森も、桁違いに広い。
日本は小さい国とかよくいわれるけど、面積でいうたら欧州の主要各国よりもでかい。だけどその8割近くは険しい山。だから人口密度でも世界有数ということになる。都市部がマンションだらけになっているのも頷けるし、東京や大阪がそれこそどこまでも広がる摩天楼のようになっているのも仕方が無い。

で、ヨーロッパ。飛んでみたら国境どこよっていう感じだし、街はなんかゴチャゴチャしてるけどその間の距離感が途轍も無い。どっちがいいとかいうんじゃなくて、なんかこら感覚が違うわいなあと思う。

さて、そんなこんなで13時間、ようやくパリへ到着したのが午後5時前。成田を出たのが11時だったから、まだ6時間しか経ってないことになる。iPhoneの機内モードを解除して画面を見ると、日本時間で深夜の1時過ぎ。今頃もーみんな寝てるんかと思ったら、なんか不思議だ。

着いたのはシャルル・ドゴール空港第一ターミナル。大学時代、「パリ空港の人々」という映画でその近未来なチューブ型エスカレーターに惹かれたことがあったターミナルだ。入国手続を済ませてとりあえず他のジャポネが向かう方向に付いていくと、この近未来チューブがあらわれた。
が、全然近未来じゃねえ。なんか止まってるし、なんかボロいし(しかも微妙に坂である)。空港っていうたら羽田とか関空とか、きれいなのが当たり前になってたけど、とりあえず全体的にボロいし小さい。拡張前の羽田や関空開港前の伊丹のような感じだ。

そして、荷物受取場での荷物の出てきかたも荒々しい。出て来るとこのすぐ側で待っていたら、スーツケースが他の荷物にググーッと挟まれて、ポンッと跳ねてコンベアの外に飛び出すわ、たぶんスーツケースに結びつけていたのであろうスカーフが取れて、それがコンベアのゴムの隙間にスッと吸い込まれていくわ、どっかのアニメのよーなシーンが続く。
で、ようやく手続一式を終え、まずは一服。ニコレットが残っているのか、フラフラっとくる。でも、よう13時間も頑張ったと言いながら、2本吸う。

ところで、ここのターミナルビルは丸い。丸いからなんか迷いやすい。直線だと位置関係が把握できるけど、丸いと視野の広がりがないから、その分自分の位置を見失う感じがある。ターミナルとしてはちょっと失敗なんかなあとも思うけど、その一方円周上をバスやタクシーの道路がグルグルと取り囲んでいるので、出口とバス乗り場との間が異常に短いという点は利点だ。ドゴールのarrivalゲートとバス乗り場の距離感ときたら、高知空港のarrivalゲートからバス乗り場までとほぼ同じような距離感だ。成田や羽田でアホみたいに歩かされることを思うと、かなり便利。

が、やっぱ暗い。なんか新宿というよりも上野あたりのボロいターミナルに来てるみたいな感じで、とにかく暗い。

ここからパリ市内までは、オペラまで直行するロワッシーバスがいいと聞いていたので、乗り場へと行ってみる。が、カードは使えずユーロも小銭オンリー。両替所に行っても多分「小銭に変えるのあかん」的なことをホニャホニャと言われて終わり(理解度10%程度)。嗚呼これからの10日間をどうやって生きて行くのだろうと一瞬不安にかられざるを得ない。

まあそれでもなんとかなるもので、ロワッシーは早々に諦めてタクシーで移動。パリをぐるりと囲む高速を越えてからは半端ではない渋滞に巻き込まれる。北駅を越えてさらに旧市街地エリアに入って行くと、渋滞に加えそれぞれなんか自由に走る車の荒波に揉まれるように、それでも速度はある程度出しながら走って行く。

ホテルに着いたのは結局空港から1時間半くらいしてから。車を降りれば、まさに初めてのおパリ。廻りも見事外人ばかり。ああ、ここではうちらが外人だ。そんなどーでもいいことにも少し感心しつつ、日本人が経営しているというポンピドゥーセンターの近くの小さなホテルへようやく到着する。

が、あいにくこの日は日本人は不在。当然まごまごしてるうちらをみて、スタッフが「Can you speak English?」と。こっちはあいにく英語も忘れてるので「a little」と情けない笑顔と共にプリーズ。いろいろと説明を受けるも約30%の理解度だ。

タケムラ家の家訓は「旅はボロボロ」。旅をするならボロ雑巾のようになるまで歩く。6年くらい前には大阪を歩きすぎて両足の筋が切れたこともある。その旨を奥様に改めて伝え、日本時間でいえば4時前だというのに近隣散策へ。ポンピドゥーは歩いて5分、セーヌ川へもそっから歩いて5分。1時間くらいだらっと歩いて、近くの店でなんとかサンドイッチ(といっても温かい、ハムとかベーコンとかをパンで挟んで焼いたもの)を買い、ようやく永い永い一日目が終わったのであった。

まだまだ続くよパリ日記。