高知の秘湯といえば、今は亡き奥白髪温泉や笹温泉、郷麓温泉。
ところが、これどころではない秘湯を発見してしまった。
これまで四国の温泉で最強の秘湯は愛媛久万高原の嵯峨山温泉だと思っていたんだけど、ここはそれを遥かに凌ぐものだった。
この温泉はテレビや新聞などでは何度か取り上げられているらしいけど、ネットにはまだ未登場。
てゆか、たぶんこの温泉はまさに「口コミ」で広がるべき温泉で、ネットなんかで広めてしまってはいけない感じがする。
だから、場所はりあえず秘密にしておきたい。ただ、とある大河の一支流にあるというヒントだけ。
訪れたのは2時前。
まあお客さんなんておらんやろーと思ってタカをくくってたら、なんと既に待合室は地元のおじいおばあや遠方からやってきたらしき家族連れやらでなんだか満員気味。
かつての奥白髪温泉と同じく、主人夫婦がお客さんを振り分けながら次々と浴室へと客を送り込むシステムで、おいらは炬燵でのんびり時が来るのを待つ。
30分くらいたって、ようやく呼ばれて別棟の浴室の方へ出て行くと、なんだかまだだったらしく、一瞬手持ち無沙汰に。
ほいたらそのすぐ横で炭火を囲む大人たちから「まあえいき、椎茸食うていかんかや」との声が。
おいらは椎茸が大好き。
設計の仕事で訪れた森林公園の事務所で椎茸のみそ汁をごちそうになって以来、もうホントに椎茸に目がない。
大人たちのすぐ横には山盛りの椎茸。
なんでもほんのさっき、すぐ横の生木から採りたての新鮮すぎる椎茸だとか。
ついつい涎がたれそうになる。
ついつい何も考えずその座に就く。
椎茸を塩水に漬け、炭火で一気に焼く。
なんで塩水なんです?
なんていう疑問にも、おじさんは「くうたらわからあ!」と笑って答えない。
まあそうだ。
で、一口。
すぐに理由はわかった。
椎茸の出汁が塩水で引き出されて、
匂いも味わいもこれまでに食べたどんな椎茸よりもずっと奥深く口の中一杯に広がる。
し・あ・わ・せ。
ああこんな瞬間のために生きているのね人間って。
そう思ってしまいたくなるぐらい、深い味。
最近ちょっと仕事が行き詰まってて元気がでないんだけど、この瞬間からしばし忘れていく。
その後も、もうなんでそんなに接待してくれるんですかいきなりというぐらい、椎茸を次から次へとよこしてくれる。
さらに、主人に教えられて「自生している状態の椎茸」も目の前でちぎって食べさせてくれた。
それも生。甘い。とろける。フシギと涼しい味。
採りたてでなければ絶対にできない真似だ。
炭火はすぐ横の山から切り出したサクラの木。
だからなんだか煙もいいにおいだ。
風呂に入ることも忘れて、しばし椎茸やらイカやらのごちそうをいただく。
聞けばこの座を囲む人々は、この温泉の界隈に暮らしている人や、この温泉に数年前からきだした遠方の常連さんたちばかりだとか。待合室で炬燵を囲むグループとこうして炭火を囲むグループがあるらしく、炭火グループは自分たちですっかり材料も持ち寄って風呂と食を楽しんでいるのだ。
結局その座で30分くらい椎茸を食べ続け、ようやくお風呂の順番に。
風呂は窓に面した槙の木?の浴槽がひとつ。
思わず絶句。
こらあえい!
以下解説。
浴槽に注ぐ蛇口は源泉直結のもので、ボイラーで直接浴槽の方を沸かす方式になっている。
高知の温泉では、笹温泉や郷麓温泉以外はボイラーで直炊きしたものを蛇口から入れているところが多くてなんだか興ざめしてしまうのだが、こういう冷泉をダイレクトで楽しめるのはなんだかうれしい。
そして、源泉は飲用可能なのでもちろん飲んでみるべし。
が、あまり特徴がない。
最初単純泉かなと思ったけど、成分表を見るとヒドロ炭酸イオンとナトリウムイオンが多く、いわゆる重曹泉。
肌がなめらかになる泉質のひとつで、高知県では東部に多い(ヒントだなこれは)。
・・・しばし浸かる。
アトピーが少し痒いのが悔しいが、なにはともあれ気持ちがいい。
張り切った肩の凝りとかが、静かに取れて行く感じがする。
極楽だこれは・・・
まあそんな極楽も長くは続かない。
次のお客さんもつかえているので30分くらいであがり、またまた椎茸三昧の次第。
温泉を後にする頃には、すっかり夕暮れになってしまっていた。
(現在は閉館しています)