ある日の夜、天狗高原近くの森へ、カメラマンの高橋宣之さんたちと潜った。
闇の迫る森は、普段の森とは様相が違うのだ。昼の森よりもよっぽど耳に力が入る。薄暗い闇の中に見える樹のざわめきや、もうあと少しで闇になる頃から突然響きだす鳥と虫の声に注意がいく。
森の果てには、地蛍が飛び立つ笹の原。小さなフラッシュのような光が点々と灯り、ふわりふわりと飛んでいく。だけど、たまに光って、たまにふわふわと飛んで来る程度。
高橋さん曰く、「2日早かった」。毎年7月7日には乱舞が観れるらしいのだが、この日は5日。やはりきちんと7日でないとダメだった・・・ということらしいのだ。ホタルの胎内時計は恐ろしく正確だ。人間なんかよりよっぽど律儀なのかも知れない。
蛍の森から戻る道は、まさに漆黒の道。この日ダイソーでゲットしたヘッドライトを消すと、あたりはいくら目をこらそうとも、何も見えない闇。飲み込まれそうとはこのこと。
おおの。一人ではよう来ん。だけど、なんか五感をさらさらと黒い手がいぢってくるその感じは、案外癖になりそうなのだ。