おいらが勝手にたった一人の師匠と思い続けて15年。
井上明彦先生。
美術家にして評論家、デザイナーでもあるこの人の授業を受けたのは大学2年生のとき。
おいらの専攻科とは一切関係のない、芸術学科の講義「芸術学特論」を取ったのがはじまりだった。
(当時は岡山大学の助教授で、出張で造形芸大まで教えにきていた。今は京都市立芸大の准教授)
「コレクション」をテーマに、ひたすら考え、ひたすら遊び、ひたすら実践。
他の眠たげな授業とは全然違う刺激に打ちのめされた一年間だった。
実際に某かのモノを自分で「コレクション」し、その背景を読み取るという課題では、テレクラティッシュを四条河原町で100個以上収集し、情報化で軽くなるセックス産業の行方らしきものを考察。
さらに、森村泰晶や藤本由紀夫、中原浩大といった現代美術作家のコレクションの展覧会「 THE ARTISTS’ COLLECTIONS 」を企画・運営し、作家活動におけるコレクションの意味や価値を見せつけられ、ついでに展覧会の実務までぐっすりと経験させてくれた(F.P.Mの田中さんによるライブがあったりもして、今考えてみてもすごい企画だった)。
さらに94年から95年にかけては、岡山の取り壊し前のビルを使い、一年間アートの実験をしまくる「自由工場」を井上先生が主宰。床のPタイルを全部剥がしてしまう”OFF THE FLOOR”に参加したり、そのときに撮影した写真を建物に同化させる”ON THE FLOOR”を企画してみたり、それまでに経験したことのない「変なコト」をやれる空間に興奮した。
結局阪神大震災の影響で3回しか訪れることができなかったけど、リノベーションだとか地域の空間を使ってのアートスペースづくりのまさに「嚆矢」そのものの現場だった。 NPOもネットもない時代、パソコンだってまだまだ普及しているとは言えないこの時代、まさに10年早すぎた現場だった。この場所から、21世紀美術館や直島のキュレーターが育ち、現代美術作家が育っていった。
大学を出てからしばらくは音信不通だったけど、神戸で先生が企画した「新開地アートブックプロジェクト」に参加せーへんかと資料を送ってくれたのが5年前。街を実際に歩き、街の隅々の「面白い」を引き上げる、【街の地質調査】と称したこの本にもまた相当の衝撃。後の「高知遺産」の兄貴分ともいえる本で、藤浩志さんのブログでもあまりの兄弟っぷりを紹介いただいている。
で、井上先生。
こないだ突然電話があり、いま徳島なんや、これから高知へ行くけど会えへんか。と。
昼間はなかなか時間が取れなかったので、投宿されていた窪川の松葉川温泉まで夜中にダッシュ。結局閉館となる23時には退散したけど、1時間半あまり自由工場の話や、自由工場から巣立った工員たちの話、関西や瀬戸内のアートとは全く違った独立独歩で高知はいくべきだよといったお話を一気にいろいろ(AAFに落選したんだけど、という話しをしたら、むしろそれでえいやんかと)。お土産は淡路島のたこせんべい。キッチュなせんべい工場のお話し付き。実に12年ぶりの再会でありながら、フツーに会話が弾むのが嬉しい。
う〜ん、やっぱり師匠。
いずれにしても、前にも後にも井上先生ほどモノの見方や楽しみ方を教えてくれた人はいない。
おいらが卒業後にランドスケープ→地域計画→デザイン+地域系と来ていることも、(いまでいう)NPO的な物事の進め方(やり方には疑問がある事例が多いけど)にそれほど疑問がないのも、キッチュな物事に過敏に反応するのも、井上先生の影響が大きいと思う。
15年経ってもそれなので、やっぱり勝手に師匠なのだ。
今度は京都へ行かねば。